みなさま こんにちは。
今回は、育児についてよくご相談のある「抱き癖」について書いていきます。
泣く度に抱っこしていると「抱き癖」がついてしまって、依存心が強く甘えん坊さんになってしまい、
なかなか親から離れられないと考えておられる親御さん、またはお祖母さまにお会いすることがあります。
初めてお母さんになられた方がこの言葉だけを聞くと、
「そのお話って本当ですか?」と不安な気持ちになってしまうのも当然ですよね。
「抱き癖」という言葉は、ずっと昔にアメリカなどで提唱された考え方で、
「自立心を養うためにも抱き癖はつけない方がいい」という考えが日本にも入ってきて、
今のお祖母さま世代に広まっていきました。
その後、いろんな症例をもとに研究がなされ、
「抱かないようにするということは自立心を養うこととは逆行する」ということが分かり、
そのような考え方はなくなっていったのですが、言葉だけが今でも残ってしまっています。
現在の研究では、「たくさん抱っこして甘えられた子ほどしっかり自立して育っていく」という考え方が定説になっています。
精神科医であり、子どもの発達研究に生涯をつくされた佐々木正美先生は、
乳児期に一番大切な心の発達は「基本的信頼感」だと言われます。
「この世界は自分がいてもいい世界なんだぁ。自分には守ってくれる人がいるんだぁ。」と感じる心が育つ時期が乳児期です。
人を信じる感性と自分の価値を実感する感情とを合わせて「基本的安全感」とも言うそうです。
乳幼児期というのは、この感性が大きく培われ、育っていきます。
赤ちゃんの身体の発達は目に見えて分かりやすいのですが、心の発達はなかなか実感としては分かりにくいです。
赤ちゃんの身体的な発達を促すため、
「首が座る→寝返りをする→ハイハイをする→お座りする→つかまり立ちする」という順番にあわせて、
どんな関わり方や遊び方をするかというお話は私もよくさせて頂きますし、お母さんも目に見えるので分かりやすいですね。
しかし、見えにくい心の発達にも、身体と同様に段階があります。
幼児期、学童期、思春期、青年期と、年齢とともに社会的な成熟を果たせるようになるには、
心も段階を経て成長していく必要があるのです。
その一番最初の心の発達が、お母さんとの信頼関係です。
極端に言えば、お母さんは赤ちゃんが今後の人生で出逢っていく周りの人、つまり先生や友達、仲間の代表者ということですね。
1才半くらいまではご家族と協力して、赤ちゃんの欲求に存分に応えて、
おむつを替えたり、おっぱいをあげたり、抱っこしたり、遊んだり、あやしてあげることは、
赤ちゃんとの信頼関係を築くというとっても大切な意味があるのですね。
しかし、ここで勘違いをしないでいただきたいのですが、
「ずっと抱っこしなければ赤ちゃんの心が育たない」ということではありません。
現代社会のお母さんたちは昔と比べて忙しくなっていることもあり、
「泣く度に母乳を吸わせていると他の事ができなくて大変だから母乳育児をやめたい」とか、
「早々に仕事復帰をすることになり、赤ちゃんと一緒に過ごす時間を十分に取れないから私はダメな母親です」
といったお母さんたちに出会うことがあります。
その他いろいろな理由で、満足に赤ちゃんを抱っこする時間が作れないと考えてらっしゃるお母さんもいらっしゃると思います。
授乳のコツについては、また別の機会にお話したいと思いますが、
今回は、「子育ての時間と質」について、私の考えをお伝えしたいと思います。
今はお母さんたちが仕事を持っているのが普通の社会になってきました。
保育園に預けるには0歳児枠じゃないと難しいということで、心残りがありながらも仕事に復帰される方もいます。
さらに、「介護や看病など一人で何役もこなし、とてもじゃないけど余裕がない。」という方や、
育児に入る前まで仕事の第一線で活躍されており、家庭に入ったことで社会とのつながりが持てずに
不安定になってしまう方もいらっしゃいます。
そういう場合、赤ちゃんとずっと一緒に過ごしていくという状況がしんどくなってくるわけです。
では、関わる時間が短いお母さんは、赤ちゃん対して愛情不足になってしまうのでしょうか。
もちろん、赤ちゃんとずっと一緒にいて、周りの支援も得られ、ずっと楽しく過ごせるに越したことはありません。
しかし私は、子どもへの愛情は時間ではなく「質」だと思います。
いくら一緒にいても、ずっと携帯を見ている、不機嫌でイライラしてるより、
短時間であっても、笑顔で抱きしめてあげられる時間を持てる方が、よっぽど良いのではないでしょうか。
そのお母さんの愛情こそが、赤ちゃんの心の発達につながっていくのです。
もしかしたら、保育園で素敵な保育士さんとの出会い、助けてくれるママ友との出会い、いろんな世界が広がっていくかもしれません。
仕事があるおかげで心に余裕が持てる方、大人と話せる喜びで心が救われる方も多くいらっしゃると思います。
そのことでお母さんの気持ちにゆとりが生まれ、笑顔で赤ちゃんに向き合える時間がつくれるのなら、
それはお母さんと赤ちゃん両方にとってとても良いことだと思います。
大分話が大きくなってしまいましたが、お伝えしたいのは
「抱き癖ってないから、好きな時に抱っこしてあげてくださいね」っていう単純なことです。(笑)
日々、幾度となく赤ちゃんを抱っこする瞬間、
それはお子さんが大きくなって、友人を信頼し、同僚を信頼し、人間関係を作っていく基盤をお母さんが赤ちゃんに提供している瞬間なのかもしれません。
多様性にあふれた時代に、お母さんが生き生きと頑張る社会を応援したいと思います。