今回は、授乳中のお食事について書きたいと思います。
お母さん方から、「桶谷ってもっと食事指導が厳しいんだと思ってました。」とよく言われます。
私自身もそのお話はお母さん方からよく耳にします。では、実際はどうなのでしょうか。
学会や研修では食事とつまりの関係について、その詳細は明らかになっていません。
もちろん食べたものがそのまま母乳の油分として出てくるわけではないですね。ご存知の通り、食物は消化管を通って消化吸収され、血液にのって栄養素は流れているわけです。糖質を取ったから母乳が甘くなるというわけではありません。しかし、食べ過ぎが続くと授乳中でなくても、健康を害するのはみなさんご存知の通りです。
桶谷の研修センターで、私が学生の時に学んだのは、「旬のものを少量ずつバランスよく摂る」というシンプルなものでした。 では、桶谷式乳房マッサージを考案された桶谷そとみ氏(故人)は、当時どのようにお伝えしていたのか、ということを直々に学んだ先輩助産師に聞いてみました。
諸先輩が言われるのは、桶谷氏は何を食べてはいけないということは一言も言わなかったとのこと。
お母さんたちが分かりやすいように、山菜の食べ方、味噌汁の美味しいだしの取り方、旬の魚の食べ方などを丁寧に説明していたそうです。母子一体性を説く桶谷そとみ氏は、食生活はこれからの家庭をつくっていく上で、健康に直結しているというその重要性を説いていたのではないかと思います。
病気になった時、私たちは日頃の生活を省みて、食生活などを改めます。
医学には、「未病」という言葉があります。これは2000年前の中国の医学書であるもので、病気になる前段階の状態を指します。自覚症状はないけれど検査値が異常の人、自覚症状はあるけど検査値に異常はみられない人のことを未病と定義するそうです。(日本未病学会から)
健康と病気の間には、グレーゾーンがあります。生活習慣病やメタボリックなどもこれに該当します。
人間ドックや健診は行くけれど、健康を維持する生活はあまり意識してないことが多い日々、出産・子育ては生活が大きく変わる時です。その時、ご家族にとって食事について考える一つの機縁となるのではないかと思います。
では、どんな食事が指標となるのでしょうか。
栄養素を考える上で「まごわやさしい」という言葉が一つのヒントになるかと思います。
ご存知の方もいらっしゃると思いますが、ご参考までに。
ま:まめ 大豆・味噌・豆腐
ご:ごま ごま・ナッツ
わ:わかめ ひじき・海藻
や:やさい 根菜・緑黄色野菜
さ:さかな 小魚・缶詰など
し:しいたけ えのき・しめじなど
い:いも じゃがいも・かぼちゃなど
これらの食材で一汁三菜をやろうとすると、忙しい毎日にどっと疲れてしまいそうですが、味噌汁に入れて具沢山にするのも一つの手かと思います。それぞれのうま味が出てグッと美味しくなります。
また、日本では古来より、普段の日常を「ケ」と呼び、お祭りやお祝いなどの非日常を「ハレ」と呼んで使い分けていました。ケの日があるから、ハレの日がより特別となり、日常にメリハリが生まれます。お子さんのお祝い事、行事など、大切な日は美味しいものでお祝いしたいですよね。それは、授乳中であっても同じように大切なものであるはずです。
(ですが、やはり毎日ケーキ、毎日フルコースなど、ハレの日ばかりが続くと、不調を招くことにもなりかねません。それは現代病とも言われる生活習慣病にもつながるものかと思います。)
生活の中にケとハレの両方があり、そのバランスを大切にすることこそ、充実した生活が繰り返され回っていくのではないでしょうか。
授乳中の食事がつまるかどうか、というより、もっと大きな意味があるように感じています。と、書きながら、私自身も食事について省みつつ・・・。